はじめに
将来、ご両親が亡くなられて相続が発生したらどのくらいの相続税を支払わないといけないのだろうか。今から対策しておけないかなぁ。とご心配されていると思います。
「相続税の税率と両親の財産の総額が分かれば相続税が計算できる」と考えられている場合、これだと相続税を高く見積もりすぎてしまいます。
そして何より「そもそも相続税の納税をする対象なの」という点を見過ごすと取り越し苦労になります。
将来に備えて準備をしておくことはとても大切ですので、次の3つのポイントを押さえながら、相続税の税率について理解していくことをおススメします。
【相続税の税率を知りたいときの事前チェックポイント】
(1)そもそも相続税の対象?対象者は8.3%
(2)「相続税=相続財産の総額×相続税率」は間違い
(3)相続税を減額できる特例で申告しても0円になることも
本記事では、相続税の税率を知りたい方が、相続税の金額がどのくらいになるかイメージできる流れでご紹介していきます。
1.相続税の対象?相続税の対象チェック
国税庁が発表した「令和元年分相続税の申告事績の概要」(本記事時点の最新)によると相続税の申告が必要となる割合はたった8.3%になります。近年の申告率はおおよそ同じくらいですね。
そもそも対象でなければ相続税は考えなくても良いお話になりますので、チェックしましょう。
【相続税の申告が必要かどうかの判定式】
(1)相続財産の額 - (2)相続財産基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数) > 0
※法定相続人は、法律で定められた相続の対象者です。
【計算例】
(1)ご自宅:3,000万円、預貯金:1,000万円 計:4,000万円
(2)お父さんが亡くなった場合、法定相続人がお母さん、長男・次男の3人
3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円
(1)(2)から 4,000万円 - 4,800万円 < 0
この場合には相続税の申告は不要ですので、相続税については考えなくてよくなります。
2.気になる相続税の税率と相続税の計算方法
1章でチェックした結果、相続税の対象であった場合には相続税の税率を知って、相続税の計算ができるといろいろな対策ができますね。
実際には、特例の適用など相続税の正しい計算は非常に難しいので税理士に依頼することが良いのですが、今後もご両親の財産額は変化していくと思いますので、おおよその計算ができることが大切になります。
2-1.相続税の税率とは
相続税の税率は表1のとおり国税庁のホームページのとおりとなります
表1:相続税の税率の一覧表
財産が1億円の場合には、30%の3,000万円が相続税なのか?と驚かれると思いますが、これが冒頭のチェックポイントで触れた
「相続税=相続財産の総額×相続税率」は間違い
という内容につながってきます。
表1の一番左のタイトルのとおり財産総額ではなく「法定相続分に応ずる取得金額」に対して税率が決められています。つまり法律で定められた法定相続分という割合があって、その割合に準じて分割した前提で税率を考えていきます。実際の分割は法定相続分に準ずる必要はありませんが、相続税の計算には法定相続分の割合が利用されます。複雑ですよね。
2-2.相続税の計算と税率の考え方は?
1章の例と同じ家族構成として、お父さん、お母さん、長男、次男の場合をみてみましょう。
【相続税の計算例】
>対象チェック
(1)ご自宅:4,000万円、預貯金:2,000万円、株:2,000万円 計:8,000万円
(2)お父さんが亡くなった場合、法定相続人がお母さん、長男・次男の3人
3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円
(1)(2)から 8,000万円 - 4,800万円 > 0
この場合には相続税の申告が必要になります。
>相続税の税率
1億円の財産ですので、相続の1億円から30%を適用するのではなく、法律で決められた法定相続分で
適用すると配偶者1/2、子1/4ですので、
相続する財産 : お母さん 4,000万円、長男 2,000万円、次男 2,000万円
相続税の対象財産 : 総額 8,000万円 - 基礎控除 4,800万円 = 3,200万円
お母さん 1,600万円、長男 800万円、次男 800万円
となります。
相続税率は、
お母さん 15%、長男と次男はそれぞれ 10%
となります。
>相続税額の計算
お母さん 1,600万円 × 15% - 50万円 = 190万円
長男 800万円 × 10% = 80万円
次男 800万円 × 10% = 80万円
相続税の単純計算 : 350万円
ここから先の計算や実際に違う割合で分割した場合の考え方などについては、さまざまな要件を加味しないと正しく計算ができないため、最大値だと思って参考にしていただければと思います。
3章で、相続税を減額できる特例をいくつかご紹介しますが、取り入れたい場合には専門家に相続しておくとよいと思います。
3.相続税を減額できる主な特例
相続税を計算していく際に、いろいろな特例があることは2章でもお伝えしましたが、主な特例を3つご紹介します。相続の状況は2章までのものを引き継ぎます。
(1)配偶者控除:1億6,000万円もしくは法定相続分のどちらか高い方までの控除
→ お母さんの相続する財産が1億6,000万円以下なら相続税0円
→ お母さんの相続する財産が1億6,000万円以上のでも、財産総額の1/2まで
であれば0円(相続人:お母さん・長男・次男)
(2)小規模宅地等の特例:相続財産のうちお父さんが住んでいた自宅の財産評価を8割減
→ お母さんがご自宅を相続して住む場合は、4,000万円×20%=800万円
つまり4,000万円の財産価値を800万円として計算できる。
(3)生命保険の非課税枠:生命保険の死亡保険金を受け取った場合500万円×法定相続人を控除。
→ 2章までの例では保険金の受け取りがありませんでしたが3,000万円の死亡保障の保険金に加入していた場合、3,000万円×3人=1,500万円が相続税の計算の対象となる財産として追加される。
以上となりますが、相続が発生したあとに相続税を減額する特例等は意外にも少ないです。
さいごに
銀行・信託銀行、生命保険会社などが生前対策をおススメするCMやパンフレットを配っているのは、生前に対策できることの方が多いからです。ただし、やはり家族が亡くなったことを想定した対策や生前に財産を譲ることは気持ちの面では難しいと思います。
家族が集まるお正月やお盆のタイミングなどで、税金の話を含めて家族会議をされるといいですね。